米国の大統領選で共和党候補のドナルド・トランプ氏が予想外の劇的な勝利を収めてから初の取引となった10日午前の東京株式市場。

トランプ氏が勝利宣言で経済優先の姿勢を鮮明にしたことで、米経済の先行きに対する過度な警戒が和らぎ、前日の急落から一転、全面高となった。株価上昇率の高い銘柄からは「米国第一」を掲げる次期大統領への反応ぶりが見て取れる。

日経平均株価は3営業日ぶりに大幅反発し、前日比927円33銭（5.71％）高の1万7178円87銭で前場の取引を終えた。前引け時点の東証1部の値上がり銘柄数は1942と、全体の97.7％を占めた。値下がりは37、変わらずは7銘柄にとどまった。午後も上げ幅をさらに広げている。

値上がりが目立ったのが、インフラ関連銘柄だ。トランプ氏は大統領選後の勝利宣言で「インフラ整備は最重要課題だ。そのために何百万人という労働力を投入する」と語ったことで、米国に進出する日本のインフラ関連企業もその恩恵を受けられるとの期待が高まっている。

米国でＨ形鋼のトップシェアを握る大和工業は、前営業日に比べ504円（18.32％）高の3255円と制限値幅の上限（ストップ高水準）まで買われた。米国西海岸で生コン・セメント事業を展開する三菱マテリアル株も一時はストップ高の水準まで買われた。米国でインフラ投資が拡大すれば売り上げが増えるとの期待から、建機のコマツや日立建機、住友重機械工業などの銘柄も軒並み8～10％近くの値上がりとなった。

防衛関連も上昇した。トランプ氏は在日米軍駐留経費の日本側負担増を唱えてきたことで、日本側の防衛費が膨らむとの連想から防衛省と取引のある火工品中堅の細谷火工の株価は一時20％近く上昇した。

もっとも、トランプ氏が選挙期間中に繰り返し示してきた保護主義的な姿勢は、自動車などに代表される輸出企業にとっては大きな逆風になる。

トランプ氏は環太平洋経済連携協定（ＴＰＰ）を否定しており、北米自由貿易協定（ＮＡＦＴＡ）についても米国に有利な形で再交渉を行うとしている。中国やメキシコなどから輸入する商品に大幅な関税引き上げを行う可能性もある。

これまでの米国の自由貿易路線を真っ向から否定するこうした主張を通商政策に反映されれば、日本企業も無傷では済まない。日本にとって米国は最大の輸出相手国だからだ。みずほ総合研究所によれば、2015年の米国向け輸出（財、サービス）は20兆1720億円と、輸出全体の20％を占める。また、そのうち自動車が26％と約４分の１を占めている。

トヨタ自動車やホンダなど自動車株は、業績への影響が大きい円相場が大幅に円安に振れたことを受けて、10日午前の段階では軒並み値上がりした。だが、今後の米国の通商政策次第では負の影響を免れないかもしれない。トランプ氏が内向き姿勢を強めれば、日本通運など運輸株、日本郵船など海運株にも影響を及ぼしそうだ。

トランプ氏が経済優先の姿勢を示したにせよ、それは所詮「米国第一」になる可能性がある。そうだとすれば、日本株を取り巻くリスクは変わっていない。今日の大幅高は前日のショックからの反動に伴う一過性の上昇にすぎないかもしれない。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ10H6H_Q6A111C1000000/